言わずと知れた高齢化社会問題。決して近年に始まった事では無く、日本人口平均年齢が30代と言われたベビーブーム時代ですら、高齢者人口増加が危惧されていました。対応するための施策は様々ですが、それらの根底にある「高齢者福祉の理念」はどの様な物なのでしょうか。何を目的としているのか。どう推移していくのか。順を追って解説します。
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高齢者の福祉とは
今日の高齢者福祉に関する法律や制度の元となるものは、老人福祉法です。
後世への強い影響があった物としては決して古くは無く、戦後の復興期である1963年(昭和38年)にて施行されたものです。内容も、高齢者医療を無償にしていたため財政破綻を招き他の制度に取って代わられるなど、法制度としては欠陥が目につきます。
しかし高齢者福祉を考察するうえで非常に大きな存在です。この法律を紐解くと、その内容だけでは無く、高齢者福祉そのものが浮かび上がります。
「敬老」を法律化
「孝」や「敬老」等の言葉で表される様に、高齢者を敬う概念自体は古来より存在しました。例えば、1948年(昭和23年)施行の祝日法(正式名は「国民の記念日を決める法律」)では早々に「敬老の日」が定められています。
しかしそれらはあくまで思想や道徳の範疇であり、意味も価値も漠然とした物です。それが国家政策となり法律として明文化される事で、より国民へ訴えかける物となりました。
「敬老の精神」から「高齢者福祉制度」への具体化
法律であるが故、漠然とした概念も具体化されました。老人福祉法の主要な条文を要約すると、以下の様になります。
「高齢者への福祉を文章として明確化し、法律として規定する」
「高齢者は長年、社会に貢献し続けたうえ、豊富な経験と知識を身に着けている。これ即ち敬愛の対象である」
「積年の功績に報いるため、周囲の力で以て高齢者の生活は保障されるべきである」
「国及び地方公共団体の法的な責務として、高齢者への福祉を増進する」
「高齢者に関連した事業を行う者は、その福祉の増進を図る」
他にも、「敬老の日にて、高齢者への関心、理解を深める一方で高齢者が自らの生活向上の意欲を高める様に努めなければならない」とした条文まであります。
特に「高齢者は長年~」の項目は、高齢者福祉それ自体の根源と言えます。
福祉は享受するのみにあらず
同法では、高齢者の医療費を全額無償にするなどの制度がありました。現代の視点では高齢者の生活を国家が負っていたかの様なイメージが強くあります。
しかし、高齢者側に対しても推奨していた項目がありました。要約すると以下の様になります。
「心身の変化を自覚し心身の健康維持に努めるべし」
「自らの知識経験を有効活用できるよう、職業を持つ、社会活動に参加するなど、努めねばならない」」
これらの規定もまた、現代の高齢者福祉に受け継がれています。
高齢者の福祉の意味は一つではない
高齢者の福祉はどういった意味があるのか、何のためなのかを解説します。
高齢社会対策基本法
高齢社会対策基本法は1995年(平成7年)に施行されました。ものものしい名前ですが、その条文内容は高齢者福祉が社会にとって大きな意味合いを持つと述べられています。その前文を要約すると以下の様になり、高齢者福祉の狙いが浮かび上がります。
「長寿は人類の願いである。長寿を幸福だとする皆の思いが変わる事の無い豊かな社会を整備して、皆が安心と幸福のもとで暮らせる社会を築く」
その基本理念が目指す社会のあり方は3つ。要約は以下の通りです。
「職業や社会活動へ参加し得る公正さと活力」
「社会の重要な一員として尊重される。同時に地域の結びつきが強まり自立した物となる」
「健全かつ充実した生活を送り得る」
これらに国民1人1人が当てはまるようになり、尚且つ生涯続く物であるようにする事が、高齢社会対策基本法の狙いなのです。
高齢者は高齢者のためだけにあらず
一見すると高齢者福祉とは、高齢者の生活保持を周囲で負担するだけの単純な物に思えます。
しかし高齢対策基本法の理念にもあるように、その行為を通じる事で社会全体に働きかけ、社会そのものを活気付かせる事に繋がります。
具体例は以下の様になります。
(1)地域の連帯
・高齢者を助力する行為を通じて、地域社会の結びつきは強めます。
(2)各自の健康増進・管理
・高齢者は自らの健康保持に努め長年培った能力を無駄にせず発揮する場を得る事が出来ます。
(3)国民に安心感を与える
・労働年齢の国民も、自らが高齢者となった時でも、福祉によって生活と活力を保っていられるとの安心感を得られます。
・上記の結果、現在の仕事である社会生産に熱意を持てる様になります。
そしてこれらが集約される所は、国民の団結と、日本社会全体の豊かさを上げて行こうという意識に繋がるのです。
高齢者の福祉のこれから
福祉関連制度の細分化・業務の専門化
現時点でも高齢者福祉の業務は、様々な法律のもと管理されています。近年、多くの法律が作られました。
何故なら、高齢者人口に伴い高齢者福祉の管理業務は増加し、問題の処理に早さも質も要求されるようになります。
その処理の効率を上げるためには細分化の必要があります。細分化された業務の一つ一つの質を上げるには、専門性を高めねばなりません。専門性が高まれば、それを管理する法律が要求されます。以下に例を挙げてみましょう。
例
(1)財政確保・財務手続きの整備・効率化が要求される→介護保険法
(2)日常動作に関する本人および介護者の負担軽減が求められる→福祉用具法、バリアフリー法
(3)認知症高齢者の権利保護→成年後見人制度
(4)虐待事件の対処・防止→高齢者虐待防止法
今後さらなる問題とその対処法が生まれ、法の細分化が進む事、想像に難くありません。
地域毎の尽力
地域包括ケアシステム
今後の高齢者福祉制度で注目されているものの一つが、地域包括ケアシステムです。
これは、介護が必要になっても自らの住み慣れた土地を離れずに住む様に、各種生活援助を行うシステム。2025年(平成37年)をめどとした運用を目指しています。
こういった制度が生み出された理由の一つは、地域毎の特色に対応出来る様にするためです。
高齢者人口の多さを始め、様々な環境の違いがあります。それらは同じ法律やシステムで一律に対処するのは効率が悪過ぎます。よって、この様な自治的な対処方法に今後の期待がかかるのです。
相互扶助
高齢者福祉の根幹には、前述の老人福祉法や高齢者対策基本法で述べられているように、社会が一丸になって取り組むという根幹の概念があります。
この側面に近年注目される様になりました。地域では特に、公的な制度やサービスが行き届かない部分があります。そうなると頼るべきは、隣近所の狭い範囲によるマンパワー。見守りを行うなど、昔ながらの自主的な連携による生活援助が効果を発揮する事が考えられます。
介護保険の保険者でもある市町村の主導で、高齢者を支え合う共生による福祉が、未来を支える一角として考えられます。
まとめ
全ての人間は老いを迎えます。高齢者問題は、自らと切り離す事は出来ません。老人福祉法の事、更には「敬老」の思想が何故生み出されたか。また、最後に高齢者をそして未来の自分を支えてくれる存在は誰であるか。原点に立ち返りつつ考える事で見えてきます。高齢者福祉とは詰まるところ、自らの人生を守り更に社会全体を向上させるのでしょう。
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