認知症で幻覚が見えることもあるの?症状は?予防と対策は?

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近年、話題に上る事が多いVR(バーチャルリアリティ=仮想現実)。コンピュータでCGや実写の空間を創り、ヘッドセットを装着する事によって仮想世界に入り込めるこの技術は、ゲームや映画業界などで積極的に取り入れられています。またVRは介護業界でも活用されていて、認知症の理解を深める為に、幻覚や記憶障害を擬似体験できる取り組みが広がっています。

 

認知症の幻覚とは

幻覚とは精神医学用語のひとつで、実際には無いものを感じとる感覚で、「対象なき知覚」と言われています。とりわけ視覚における幻覚(幻視)を指して使われる事が多いですが、本来は人間の持つ五感(視覚・聴覚・味覚・聴覚・触覚)全ての知覚を含んでいます。また、幻覚に対し、実際にあるものを異なるものであると感じとる感覚を錯覚と言います。例えば「壁の模様がモゾモゾ動く虫に見える」などは、壁の模様自体は存在しているので、錯覚となります。錯覚は感覚器官が正常であるにも関わらず正確な情報が伝達できずに起きる現象ですが、幻覚は感覚器官自体に異常が認められます。
オノ・ヨーコ氏が認知症である事を実弟が証言しましたが、彼女はレビー小体型認知症であるとされています。レビー小体型認知症とは、アルツハイマー型認知症、血管性認知症と合わせ3大認知症のひとつで、認知症のおよそ20%を占めています。脳にレビー小体という異常なたんぱく質が溜まり、神経細胞が減少していく進行性の認知症ですが、このレビー小体型認知症の初期段階でよく現れる症状が、幻視です。幻視は最も多いと言われている幻覚で、また老齢期認知症の30~40%に何らかの幻覚や妄想が見られると言われています。

 

 

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認知症の幻覚の症状

前項で挙げたように、幻覚とは五感全てにおいて現れます。それぞれの知覚ごとに、具体的な認知症の幻覚症状を見てみましょう。

幻視(視覚)

実際にはない人物や物など、具体的な対象が見える症状です。虫や動物などが見える事もあり、見える対象が様々です。「知らない人が家の中に居る」という幻視は、認知症の幻覚で最も多い症状だと言われています。また、自己像幻視(ドッペルゲンガー)という自分自身の姿が見える幻覚もあります。

幻聴(聴覚)

実際にはない音や声が聞こえる症状です。物音や人の声が聞こえますが、「ドアがガタガタ音を立てていて怖い」や「自分の悪口を言われている」など、心理的に不安定になる内容である場合が多いとされています。

幻触(触覚)

実際には何も触れていないのに、何かが触れているように感じる症状です。「小さな虫が背中を這っている」や「誰かに肩を叩かれたが、振り向いても誰も居なかった」など、不快感や恐怖感を伴う恐れがあります。

幻味(味覚)

口の中に何も入っていないにも関わらず、「苦い味がする」や「不味くて食べられない」などの訴えがあります。

幻臭(臭覚)

何もにおいが発生していない所で、「臭くて耐えられない」や「ガスが漏れている」などの訴えがあります。

体感幻覚(触覚+その他)

幻触にその他の皮膚感覚を加えた幻覚を指します。痛みの原因がないのに痛みを感じたり、熱さや冷たさを感じたりします。その他にも、「脳みそが溶けてしまった」や「体内に悪魔が棲みついてしまった」など、妄想的な訴えに発展するケースもあります。

幻肢痛(その他)

四肢を切断した患者が、存在しないはずの部位に疼痛を感じる症状です。また、先天的に手足等がなくても見られる症状で、手足を使っていた記憶に起因しない事が分かっています。

 

認知症の幻覚の原因

幻覚とは、何らかの精神疾患や心的ストレス(不安や恐怖など)が原因で発症します。脳機能に異常を及ぼす認知症は、その引き金となります。また、認知症に似た統合失調症(主に10代から40代くらい起きる精神疾患)・せん妄(病気や環境の変化などによる意識障害)、それ以外でも幻覚を引き起こす要因(アルコール依存症や薬の副作用など)はあり、その複数が併発する事も考えられます。幻覚の原因となる代表的な認知症とその特徴について紹介したいと思います。

レビー小体型認知症

代表的な症状に「認知機能の変動」「幻視症状」「運動機能障害(パーキンソン症状)」があり、レビー小体型認知症の3徴と呼ばれています。視覚機能を司る後頭葉に異常をきたす事から、初期段階では物忘れよりも幻視症状が出現しやすく、視覚や空間認識の機能低下が著しい事が原因とされています。幻視症状は、夜間に現れる事が多くなります。

アルツハイマー型認知症

最も多い認知症で、全体の半分以上を占めています。女性に多く見られる認知症です。初期段階では記憶障害や思考力の低下により、「大事な物が盗まれた」などの妄想(特に被害妄想)がよく見られます。中期以降になると幻視も見られますが、よく発症する症状は幻聴とされています。

血管性認知症

脳内の血管が詰まる「脳梗塞」や、血管が破れる「脳出血」などが原因の認知症です。脳内のどの神経細胞に障害を受けたかによって症状が変わり、その現れ方は様々です。脳血管障害の場合、局所症状として現れる幻覚と、脳機能が全体的に低下する事により現れる幻覚があります。局所症状としては、後頭葉病変による幻視と、脳幹病変による幻覚がよく知られています。

 

 

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認知症の幻覚の予防と対策

認知症の症状には中核症状(脳の神経細胞損壊により直接起こる症状)とBPSD(行動・心理症状)があり、幻覚症状はBPSDに分類されます。BPSDにより家族の負担は増大し介護問題が深刻化するため、より専門的な対応が必要になります。以下、認知症の予防と対策に分けて考えてみたいと思います。

認知症の幻覚の予防

認知症の予防で大切な事は、脳の状態を良好に保つ事です。それには様々な生活習慣が関係しています。バランスの取れた食習慣、適度な運動、人と接する事や知的行動などにより脳機能の活性化を図ります。また、最近の研究では、腸内の状態が脳に影響するのではないかと言われています。食物を摂取して消化し、栄養を吸収する役割を担っている腸が正常に機能する事が、脳にも十分な栄養を行き渡らせる事に繋がるという見解です。例えば腸内の善玉菌を増やし腸内の健康を保つ事が、脳の健康にも役立つという事です。

認知症の幻覚の対応

幻覚は、健常者にとっては「対象なき知覚」ですが、感じている方にとっては対象が存在しています。実際に見え、聞こえ、触れているのです。その事実を鑑みると、その対象を否定する事は返って混乱を招いてしまうでしょう。幻覚の訴えに対しては否定せずに、安心させてあげる事を目指します。例えば「小さな虫が飛び回っている」などの訴えがある場合、殺虫剤を撒く(ふり)などにより「虫はいなくなった」事を伝えるなどの対応も良いでしょう。また、幻覚が起こりやすい環境、すなわち五感が鈍くなる環境を改善します。部屋を明るくしたり補聴器を使用したりします。
認知症の進行を抑える為に最も重要なのは、早期発見です。幻覚は自分自身では気付きにくい症状です。放置しておくと不安は更に増していき、事態の悪化を招きます。周囲の人は些細な異変にも注意を向け、迅速に専門機関に相談する事が必要です。

 

認知症の幻覚の注意点

認知症の治療は、リハビリや心理療法などの非薬物療法から始めるのが好ましいとされています。非薬物療法だけでは不十分と判断されると、薬物療法の併用が始まります。最近では幻覚症状を抑える薬も開発されています。投薬量や他薬との飲み合わせなど、担当医の指示をよく確認する事が重要です。また、認知症の治療薬として「アリセプト」という薬があります。この薬はレビー小体型認知症・アルツハイマー型認知症の治療によく使用される薬ではありますが、幻覚が出る可能性も報告されています。薬の過剰作用や副作用が発症した際は、速やかに受診し、再度支持を仰ぐようにしましょう。

また、幻覚とは感じている本人独自の感覚であり、本人以外には理解が困難な知覚です。その事から、認知症との診断前に幻覚の訴えを受けると、周囲の人は驚いてしまいます。その結果、幻覚の対象を否定してしまったとしても、やむを得ないでしょう。前項でも言及したように、認知症の幻覚を否定する事は更なる不穏を引き起こします。
しかし、それを肯定しても良い結果には結びつきません。例えば幻視と幻聴とを併発した場合、「○○さんが自分の悪口を言っている」などの対象が具体的な幻覚が起きる恐れがあり、つまり「○○さんに対しての不信感」に変化していきます。幻覚には、妄想に発展する危険性が多分に含まれているのです。

 

 

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まとめ

認知症のBPSDのひとつとされる幻覚症状は、本人を始め、周囲の人にも大きな不安を与えます。その中でも家族や関係者には専門的な知識と寛容な対応が求められる為、過大な介護疲労の要因となります。

家族は自身の心身状態安定のために、介護保険サービスを利用するなどしてレスパイトケア(介護疲労の軽減)に努め、またそれが寛大なケアにも繋がると思います。

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