高齢者の虐待が増えている?現役介護士が虐待について考える

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日本はこれまでの歴史で経験したことがない未曾有の高齢化社会を迎えています。

すでに全人口の27.3%(約3人に1人)が65歳以上の高齢者となっています。高齢者が増えれば、とうぜん要介護高齢者も増えますが、少子化のため介護する家族には大きな負担となります。

このような状況で問題にはなるのは高齢者の虐待です。今回はそんな高齢者の虐待について考えてみます。

 

高齢者の虐待とは

介護は密室で行われます。家庭はもちろん、介護施設でも居室の中やカーテンの中という閉じた世界です。要介護高齢者は世話をされる弱い立場にあり、さらに認知症の人であれば虐待の実態を理解できなかったり、声をあげることもできません。

このため高齢者虐待は外部が気付くことが遅れ、発見が遅れてしまう例が少なくありません。厚労省が発表する資料によると、高齢者虐待は2012年度には約1万5000件あります。把握されていない虐待もあるので、把握できているだけでもこれだけの高齢者が虐待を受けていることになります。

虐待とは「高齢者の心身に深い傷を負わせ、基本的な人権を侵害する行為」です。高齢者虐待防止法には、虐待の定義として身体的虐待、心理的虐待、介護の放棄、性的虐待、経済的虐待の5種類に大別しています。各虐待の定義については下記を参照してください。

虐待の定義

・身体的虐待:高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴力を加えること。
・介護の放棄:高齢者を衰弱させるような著しい減食、長時間の放置、養護者 以外の同居人による虐待行為の放置など、養護を著しく怠ること。
・心理的虐待:高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい 心理的外傷を与える言動を行うこと。
・性的虐待 :高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせ ること ・経済的虐待:養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当 該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。

 

 

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高齢者虐待の実情

家族の中で虐待者になりやすい人は、「同居の息子」です。次に「嫁」、「娘」の順になります。最近はこれにくわえて配偶者(夫、妻)の割合が増えています。子供との同居が減り、老老世帯の老老介護が増加している影響です。

虐待される人の属性をみると、年齢は平均81,6才で、8割近くが女性です。介護度は「要介護3以上」の重度の人が半数を超えています。そして実に8割以上が認知症者です。虐待者と被害者の9割近くは同居です。なかでも日中を含めて常時一緒、という人が半数を超えています。

虐待している人に状況をきくと、「介護の協力者がおらず、相談者もいなかった」人が全体の半数を超えていました。孤立した介護では虐待がおきると考えておいたほうがよい証拠です。

虐待の種類では、「心理的虐待」が6割以上で最も多く、次に「介護の放棄」、「身体的虐待」、「経済的虐待」となります。性的虐待は被虐待者の年齢と関係もあってか他に比べると少ないですが、ゼロではありません。

上でみてきたのは養護者による虐待のケースです。養護者とはつまり家族のことですが、最近は介護施設の職員による虐待が注目されています。養護者による虐待は昔から問題となっており、統計もでていますが、介護施設での虐待が問題になってきたのは最近のことであり対応策などをふくめ模索の段階です。

 

 

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高齢者の虐待の原因

統計によると、養護者の虐待の原因としてあがるのは、「虐待者の性格や人格」が多く、半数を超えます。他に「人間関係や経済的理由」もあります。一般的に虐待の原因と思われる「介護疲れ」は4割弱となっており、「高齢者本人の痴呆による言動の混乱」、「排泄介護の困難さ」など、介護に関係する理由も上位にきます。

しかし、家族による虐待の原因で多いのが「虐待者の性格や人格」、「人間関係」という点に注目すると、介護の大変さ以外の要素にも目を向ける必要があるのがわかります。つまりそれまでの親子関係、夫婦関係、嫁姑関係についてです。

親や配偶者、姑が若い時は頭があがらなかったのが、年をとり力関係が逆転したときに虐待に走りやすい。このような構図が見て取れます。また、虐待を受けているほうは「介護してくれる家族や人を悪者にできない。文句をいったらみてもらえなくなる」などと考え、周囲に被害を訴えないケースが多いものです。それが虐待を継続させる原因になったりもします。

養護者の虐待の原因にくらべると、介護施設の職員による虐待の原因は少し違うようです。多くは介護疲れ、さらに言えば職場の人間関係で孤立することが主な原因だと言えるでしょう。

虐待を起こす介護職員は離職率が高い施設で働いており、さらに虐待が夜勤帯の時間に多いことがそれを物語っています。

 

高齢者の虐待の予防と対策

養護者にしろ介護職にしろ、虐待の原因は介護の密室性と要介護者の孤立です。虐待の予防にはこの2つについて対策をたてる必要があります。

家族が虐待している場合は、虐待していること自体に気づいていないことが多いです。まずはその行為は高齢者虐待防止法では虐待にあたるということを気づいてもらう必要があります。虐待している本人に虐待行為だと自覚してもらうと、虐待がなくなることもあります。

それでも虐待がなくならない場合は、地域包括支援センターの社会福祉士を筆頭に自治体が対応することになります。相談を重ねても虐待が継続する場合、利用者保護の観点から行政の措置によって高齢者を老人ホームに入所させ、虐待者から強制的に隔離する対策をとります。しかしこれは最終手段です。

要介護者と心理的にも物理的にも距離が近いと、ストレスになり虐待行為をおこしやすくなるため、デイサービスを利用してもらい、日中だけは離れたり、それでもダメならショートステイを使って数日間離れる時間をつくるようにしましょう。普段から適度な距離感を持つように介護サービスを利用するようこころがけることが重要です。

また、介護について話し合える仲間がいるかどうかも重要になります。地域には介護者のつどいがあるので、地域包括支援センターに聞いてみたり、兄弟姉妹などの家族に協力を求めることも必要です。

 

高齢者の虐待の注意点

高齢者虐待の場合、本人に虐待されているという自覚が無かったり、介護の世話になっているのだから、と隠そうとする人もいます。また家族の場合、虐待をしている自覚がないことも多いものです。

家族関係は密室のなかにあり、外部の人間にはみえにくく、また家族のプライバシーに深く関係することですから、安易に虐待案件として判断することはできません(虐待の報告があれば行政が動くため)。

しかし、発見が遅れたり、発見していてもこれくらいのレベルなら大丈夫、と放置すると、最悪殺人事件にまで発展する可能性があります。そのため、養護者による虐待やその一歩手前の「不適切なケア」の段階で対応する必要があります。

また、虐待している人のほうもけっして好きで虐待しているわけではないと思います。虐待の原因は人間関係にあることも多いですが、殺人事件にまでつながることはまれです。それでも殺人事件をおこすのはやはり介護者としての孤立が原因です。

介護は空間的にも精神的にも要介護者と密室的な関係を構築しやすく、そこに相談相手がいない状態が続けば、あまりよい結果にならないのは想像に難くありません。密室状態をできるだけ遠ざけ、介護について話し合える仲間作りをする。虐待している本人もその辛さから逃れるために覚えておいてほしいと思います。

 

 

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まとめ

高齢者虐待を防止するためには、社会保障の充実、法整備といったマクロな体制も大事ですが、介護者へのケアというミクロなつながり作りも不可欠です。虐待は高齢者にとっても介護者にとってもなんのメリットもありません。

お互いが不幸な事態に陥らないよう、行政や介護専門職、そして地域の人の支援が求められています。

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